プリニウス第50回/さまざまなアレクサンドリア

2018年06月18日

本日は「新潮45」7月号の発売日です。ヤマザキマリ+とり・みき『プリニウス』は節目の50回。プリ一行は古代の大学術都市アレクサンドリアに入りますが、そこへローマで政争に巻き込まれているセネカからの手紙が......

アレクサンドリアは当時のヘレニズム世界の叡智が集まった大図書館やファロスの大燈台などで有名ですが、文献にはその様子が記されているものの、遺跡そのものは現在では跡形もありません(燈台の一部の石材が後代の要塞に使われてはいますが)。

燈台はまだ14世紀までは存在し、ゆえに中世期の版画にもその威容が描かれていて、おおよそこんな形だったろうという一致した見解がありますが、図書館のほうは調べてもあまりわからない。描くほうの想像力に委ねられ、中世から現代のCGに至るまでその解釈は様々です。

最近では「アサシンクリード・オリジンズ」というゲームで、実に細かいところまで再現されれたアレクサンドリアが登場し、図書館も出てきますが、これはハドリアヌス期に現在のトルコに建てられたエフェソスのケルスス図書館遺跡を参考にした由。したがってほとんど2世紀頃の古代ローマ属州建築的なファサードになっています。図書館に限らず、街全体がどちらかといえば古代ローマ色が強い印象。すべての属州に同じような施設を作った古代ローマですから、この見解ももちろんありですが、気持ちモダンな感じ。作りこみは本当に素晴らしい。

いっぽう時代がやや下った、4世紀の女性天文学者ヒュパティアを描いた映画『アレクサンドリア』に登場する図書館は、逆に古代エジプト的な建築様式を取り入れています。図書館の最初の建設はプトレマイオス期であり、アレクサンドリアは同王朝の首都だったので、それもまた頷ける。

ちなみに『アレクサンドリア』で図書館を破壊するのは当時の原理主義的なキリスト教徒であり、黒を基調とした狂信的な集団の描き方はまるで現在のISSを彷彿とさせます。スペイン製作の映画ですが、その俯瞰的かつ相対的で皮肉の効いた視点には少しく感心させられました。宗教や身分や政争を超え自然科学的な事実こそを是とするヒュパティア像にも共感を覚えますし、図書館や神殿のセットも(CGでだいぶ補完しているとは思いますが)かなり大がかりに作ってあってそれも見所です。

脱線しましたが、プトレマイオス朝はギリシャ(正確にはマケドニア)系のエジプト王朝であり、アレクサンドリアもヘレニズム学術世界の拠点だったことから、ギリシャ風の建物もあって然りでしょう。大製作費を投じて20世紀FOXを傾けさせたエリザベス・テーラーの『クレオパトラ』に登場するアレクサンドリア港には巨大なギリシャ風神殿がそびえていますが、あれはやりすぎにしても。

そういうわけで『プリニウス』のアレクサンドリアは、エジプト・ギリシャ・ローマ風の建物が混在している形で描いています。図書館だって時代時代で建て増しがあったでしょうからね